パニック障害の理論(内科学会発表したものに加筆修正をした)

 

 社会生活が高度に、複雑になるに伴い、不安を主症状とする疾患が増えてきていると言われています。パニック障害はアメリカで注目されだし、日本でもこの数年来注目されだしています。精神科医師の間では鬱病の一種類として捕らえ、治療が行われています。

 パニック障害とは、体に何も基礎疾患が無くて、特別な理由もないのに、突然、動悸、呼吸困難を伴って、パニック状態になる疾患です。覚醒時でも、睡眠中でも、何の前兆もなくおそってきます(ただしそれはパニックを起こす原因、兆候に気づかないだけで、必ず原因はあります)。思春期以後の主として女性に多くみられます。その診断は米国精神医学協会による診断・統計マニュアル第四版いわゆるDSM−4によりなされます。

 パニック障害の病因として現在神経伝達物質の異常が考えられて、ノルアドレナリンの活性の増加、セロトニンやGABAの活性の低下から、パニック障害を理解説明しようとしています。その結果、ノルアドレナリンの活性を押え、セロトニンやGABAの活性を高める薬を使って、パニック障害の治療を行なおうとするものが中心になっています。これらのことに関しては、今年の日本医師会雑誌1月15日号に小特集が組まれ、かなり詳しく説明されていますが、私は多くの部分でこれらの説明に疑問を感じています。当院では薬を投与しないで、精神療法も行わないで、カウンセリングだけから、クライエントの認知の仕方を情動に即するように、自分の情動をありのままに認めることで、パニック障害の問題点を克服しています。

 パニック障害の原因として、脳内の伝達物質の問題が議論されています。しかしもし脳内の伝達物質が原因だと、このような私の対応方は全く効果は無いはずです。私はパニック障害の原因として、大脳辺縁系の扁桃体での恐怖の条件反射をあげます。成長の過程で学習した恐怖の条件刺激の汎化により、いろいろなことで恐怖や不安の条件反射を起こすようになります。

 ここで恐怖の条件反射について、登校拒否の例で説明してみます。学校で体罰のような恐怖を経験すると、学校が大脳辺縁系の海馬に記憶されて、学校を見ただけで、扁桃体で恐怖の条件反射が生じるようになります。大脳辺縁系の中隔・海馬系で不安を生じるようになります。

 そこでパニックを生じるような恐怖の条件刺激が扁桃体や中隔・海馬系で評価されて、恐怖の表出を視床下部で行ないますが、同時に思考の脳である前頭葉を支配して、思考を止めてしまう状態だと考えられます。

 不安に関しては、行動抑制系を考えれば説明がつきます。中隔・海馬系で刺激が評価されると、回避行動を抑制するとともに、脳幹の青斑核を興奮させて、背側ノルアドレナリン作動性神経束を活性化させて、覚醒の増強を生じます。この状態が不安を感じている状態だと考えられます。

 成熟した大人では、思考の脳である前頭葉が大脳辺縁系を調節できるようになります。恐怖の条件反射を起こさなくすることができます。私が行なう対応法はこれを狙った物です。ところが一般には抗不安薬が投与されます。抗不安薬は不安を取り除くために、パニック障害に効果が有るように思われますが、多くのパニック障害で苦しむ人では、飲んでいても発作が起こることには変わり有りません。それどころか、不安を無くそうとする認知過程までも抑えてしまい、パニック障害の治療には好ましくないように私は感じられます。判断しています。また、抗不安薬の投与は、飲むと不安がとれるので、飲まないとよけい不安になるという、薬への依存性を生じ、パニック障害の解決を遅らせることになります。パニック障害での、死にそうな感じになる辛い症状は意外と三環系の抗欝剤が効果があります。これを上手に使って、認知療法を続けるのが良いのではないかと考えます。

 

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