朝焼け

 気持ちの良い夏の朝でした。小狐のコンタは、朝早く目をさましました。コンタはもう眠たくありません。そっと布団を抜け出すと、一人で家の外に出てみました。いつもならお父さん、お母さんに、

「一人で家の外へ行ってはいけません。家の外には恐いお化けがいて、コンタをたべてしまうからね。」

と言われて、一人では外へ出して貰えなかったのです。しかし今日はまだ、お父さんもお母さんも、ぐっすりと眠っていました。

 そっと入口の戸をそっと開けると、冷たくてすがすがしい空気が流れ込みました。とてもおいしい空気につられて、コンタは思わず家の外に出てしまいました。だいぶ明るくなった野原の朝露が冷たく足を濡らしました。空は深い青色で、雲一つありません。地平線の上に真っ赤な太陽が半分顔を出していました。

「やあ、赤くて大きなお日様だなあ。きのうのお日様が、こっちから出てきたんだ。お日様さん、おはよう。」

とコンタは小さな声で言いました。するとお日様もぐっと地平線から顔を出して、にっこりと笑いました。コンタはお日様に手を振りました。そこで大きく深呼吸をして、ふと振り返ると、いつも見ている裏山が真っ赤になっていました。お父さんやお母さんが燃やす焚火の色と同じでした。コンタはびっくりしました。

「あれが父さんのよく言う山火事なんだ。大変だ。すぐに父さんや母さんに伝えなくちゃあ。」

 コンタは大急ぎで家に戻ると、

「大変だ、大変だ。裏山が火事だ。山火事だ。どうしよう、どうしよう、父さん。」

と言って、家族みんなを起こしました。

「山火事だって?おい、みんな、外に出るんじゃあないぞ。父さんが見て来るからな。」

と言って、お父さんは外へ飛び出して行きました。お母さんも不安そうな顔をしていました。それでも子供達を呼び集めて、

「みんな、大丈夫だから、父さんが帰って来るのを、じっと待つのよ。ここに集まって、火事が過ぎ去るのを待つのよ。おとなしくするのよ。大丈夫だから。」

と言って、子供達と体を寄せ合っていました。

 コンタは家族のみんなと一緒に、お父さんが帰って来るのを待ち続けました。けれどなかなかお父さんは帰ってきませんでした。その内、お父さんはにこにこして家の中に入ってきました。お母さんはお父さんを見るなり言いました。

「父さん、火事の具合い、どうでした?こちらに火がやってきそうですか?」

「ああ、山は真っ赤できれいだった。こんなにきれいな山は久しぶりだなあ。」

「何をのんきな事を言ってるの。こちらの方には火は来るの、来ないの?」

お母さんがいらいらしてお父さんに言いました。するとお父さんは

「裏山が朝焼けできれいなのさ。火事じゃあないよ。みんなも出てみるか?」

と言って、子供達を外へ連れだしました。コンタもお父さんの後に続いて、外に出ました。裏山は本当に炎の色のように、赤く輝いていました。子供達は

「わあ、きれい。きれい。」

と口々に言いました。コンタも

「きれいだなあ。」

と思いました。しかしお母さんは一人でぶつぶつと小言を言って、家の中へ入って行きました。

 

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