蝶と蜂とリラの花

 初夏の太陽の光を一杯浴びて、今年もリラの花が見事に咲きました。その甘い臭いに誘われて、白い蝶著がやってきました。

「リラさん、今年も見事な花を咲かせましたわね。ぜひ、密をご馳走になりたいわ。」

「やあ、蝶さん。久しぶりですね。どうぞ沢山召し上がって下さい。今年の密も美味しいですよ。」

「ほんと、ほんと、美味しいわ。沢山いただくとするわ。」

「それにしても蝶さんはいつもきれいにしていますね。」

「でもリラさんの花の美しさにはかなわないわ。貴方の花のその白さは、誰にも真似できないことよ。」

「貴方の艶やかな色合いこそ、誰も真似が出来ません。本当に美しい。私に止まってくれると、私がぐっと引き立って見えると思いますよ。本当に貴方は輝くように美しい。」

「それが私の良さよ。私は私を美しく飾り、美味しいものを食べて、楽しく暮らすんだわ。生きている喜びを精一杯味わうの。」

 蝶がリラの花の密を吸っていると、そこへ蜜蜂がやって来ました。

「あんた、そこどきな。私が密を集めなけりゃあならないんだから。」

蜜蜂が蝶をにらみつけて言いました。

「何いってるのよ。私が先に来たのだから、私が先にご馳走になるのが当り前でしょう。」

蝶と蜂が今にも喧嘩を始めようとしていました。

「二人とも落ち着きなさいよ。花はこちらにも有るんだから。二人で食べても余るほど密は有るんです。蜂さん、こっちにおいでよ。」

リラはそう言って、蜂に別の花を示しました。蜂はしぶしぶそちらの花に移って、密を集め始めました。

 「それにしても、蜂さんは良く働きますねえ。感心なことですね。」

リラが言いました。すると蜂は胸を張って答えました。

「これが私たちの仕事なんですもの。仕事を完全にやり遂げることは女王様に対する私たちの義務ですわ。」

それを聞いていた蝶が言いました。

「それで蜂さんは嬉しいの?それで蜂さんは楽しいの?働いてばかりで自分の時間が全く無いじゃあないの。密だって自分で飲まないで、皆もって帰るんなんて。」

「それが私流の生き方なの。こうして働けるだけ働いているのが、私の喜びなのよ。そしてそれが女王様の役に立ったとき、それが私の生きていた意味になるのよ。」

蜂は誇り高く言いました。すると蝶は少し意地悪げに言い返しました。

「それじゃあ、貴方は単なるロボットじゃあないの。貴方が貴方である意味が全く無いじゃあないの。」

「私はあんたみたいな怠け者じゃあないわ。女王様から与えられた生き方で生きて行くの。何も考える必要もないし、何も心配をする必要もないの。こんなゆったりとした生活は無いと思うわ。」

蜂はつんとすまし顔で言いました。すると蝶は少し腹たたしげに言いました。

「女王様の言う通りに生きて行くのね。」

「そうよ。そうすれは仲間はみんな仲良く平和に暮らせるの。」

蜂は自信に満ちて言いました。

「でも女王様が戦争に行けと言ったら、戦争に行くの?」

蝶はさらに突っ込んで言いました。

「女王様は良い方だから、戦争なんかしないわ。」

蜂は澄まして言いました。

「女王様を信じ切っているのね。」

蝶は少し呆れ顔で言いました。

「だからこうやって一生懸命働けるのよ。」と蜂が答えると、リラの木は二人の口論を見かねて口論の中に入ってきました。

「蝶さん、それも一つの生き方なのだから、それでいいじゃあないの。もうそれぐらいにして、もっと美味しい密を沢山食べて下さいな。」

「それもそうね。蜂さんは女王様以外の物は目に入ら無いみたい。これ以上何を言っても無駄の様ね。それにしても、リラさん、この密は本当に美味しいわ。こんな美味しい密を食べれるんなんて、私、幸せ。生きている甲斐があるわ。」

「そう言ってくれると、この密を作った甲斐が有ります。蝶さんどうもありがとう。」

「私も一杯密を貰ったから、一端帰るとするわ。リラさんどうもありがとう。」

「いえいえ、どういたしまして。女王様に宜しく。」

「はい。それじゃあ、また来るわ。」

そう言って蜂は飛んで行ってしまいました。「私はお腹が一杯になったから、そこでみんなと歌を歌って、ダンスをして来るわ。お腹が好いたらまた来ます。」

そう言うと、蝶も飛んで行ってしまいました。リラは初夏の強い日の光に向かって手足を目一杯伸ばして、独り言を言いました。

「みんなそれなりに生きて行けば良いのです。みんなのために美味しい密を作るのが私の生き方だから。」

 

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