ゴミ置き場の烏

 今日は火曜日です。玉ちゃんの地区は今日が燃えるゴミの、ゴミ出し日です。玉ちゃんの幼稚園は、今日は特別のお休みの日でした。玉ちゃんはお母さんのお手伝いをして、紙屑の入ったビニールのゴミ袋を運んでいました。 玉ちゃんに取っては大きな袋を両腕で抱えて、お母さんの後に続いてゴミ置き場に行ってみますと、烏が二羽、ゴミ袋をつついていました。

「あら、あら、またやっている。」

お母さんが怒るように言いました。玉ちゃんも遠くから烏を見つけて、大声を立てました。

「お母さん、ほら、烏さん。」

「ええ、烏ったら、またゴミをつっついているわ。」

「お母さん、こわくない?」

「大丈夫よ。人間が行くと、烏は逃げてしまうわ。」

二人が近づくと、二羽の烏は未練そうに、大きな羽音を残して飛び上り、近くの電柱の上に止まりました。二人はまき散らされたゴミを避けて、持ってきたゴミ袋をゴミ置き場に置きました。

 玉ちゃんとお母さんは手を繋いで、お喋りをしながら帰りました。

「お母さん、烏さん、ここで何をしていたの?お遊びしていたの?」

「ゴミをつっついていたのよ。」

「ゴミをつっつくおあそびをしていたの?」

「ゴミを食べていたのよ。」

「ゴミって、たべれるの?」

「ゴミの中に、みんなの食べたご飯の食べ残しが有るでしょう。それを食べてたのよ。」

「じゃあ、烏さんはご飯を食べていたの?」「え、?そう、そうだわよね。玉ちゃん、烏さんは朝ご飯を食べていたのよね。それをお母さん達が、じゃましちゃったのかも知れないわ。」

「それで、あの高いところで、かあ、かあ、と鳴いて、怒っていたのね。」

たまちゃんは真剣な顔をして言いました。

「きっとそうね。でもね、玉ちゃん。あそこ、あんなにゴミが散らかっていたでしょ。烏さんがあんなに散らかしてしまうと、汚きたないうえに、掃除登番のおうちの人が、余計な仕事が増えて困るわよね。」

たまちゃんは

「ううん。」

と言って、ちょっと考えていたようでした。

「お母さん。あの烏さん、お父さん烏とお母さん烏だったのかしら。」

「二匹いたから、そうかもしれないわね。」

「すると、きっと赤ちゃんもいるね。」

「かわいい赤ちゃんが、いるかも知れないわねえ。」

お母さんは玉ちゃんに合わせて言いました。

「きっと赤ちゃん、おなかすかしているね。」

「だからお父さん烏とお母さん烏が一生懸命ご飯を集めていたのかも知れないわね。」

「烏さん、赤ちゃんのために大変ね。ねえ、おかあさん。」

 そういえば玉ちゃんの家の周囲には、最近烏が増えてきました。玉ちゃんの家の近くの掲示板にも

「烏がゴミを散らかします。決められた時間になるまでゴミを出さないで下さい。」

と書いてあります。それに、真っ黒な烏が群れをなして、

「かあ、かあ、かあ」

と鳴くのも、私たち大人に取ってはあまり気持ちの良いものでは有りません。玉ちゃんのお母さんは烏を迷惑な鳥と考えていました。しかし玉ちゃんは烏を、その見かけに捕らわれないで、人間と同じ町に住む、単なる鳥として考えていました。玉ちゃんのお父さん、お母さんが玉ちゃんを慈しむように、烏のお父さん、お母さんがその子供を慈しむ光景を想像していました。烏の親子が食卓を囲んで、ご飯を食べている様子を想像していました。

 家に帰ると、玉ちゃんは飼っている十姉妹の篭の掃除をしました。餌と水も取り替えてあげました。そして

「ぴーちゃんに、じゅうちゃん。あんた達も早くかわいい赤ちゃんを作りなさい。」

と言いました。

 

表紙へ