母なる大地

私は、母なる大地でいたかった。

私の上に、かわいい若木が芽生えた時、

あなたの根を、茎を、枝を、全力で支えた。

思いつく限りの栄養を、あなたに捧げた。

 

それが大地の役目だと私は信じていた。

私の全てを吸って、あなたは大きくなった。

元気で、力強く、伸び伸びと育っていった。

私の命のすべてが、あなたになっていた。

 

突然、あなたは苦しみもがきだした。

私があげた全ての支えを振り払った。

私が与えた全ての栄養を吐き出した。

私の大切なあなたは倒れ、枯れだしたのだ。

 

辛いのなら、なぜ私の胸に抱かれないの

苦しいのなら、なぜ私の愛を拒否するの。

私がこんなにあなたを守ってきたのに。

私があなたの一番の味方なのに。

 

あなたは憎しみを込めた目で私を見た。

自分の手で自分の根っこを引きちぎった。

そんなことをしたら死んでしまうわよ。

私は必死であなたを捕まえようとしたの。

 

あなたは私の手を振り払った。

私が近寄ろうとすると、逃げだそうとした。

私の胸よりも死ぬ方がましだと言うなんて、

私にとっては地獄にいるよりも辛いのよ。

 

その時、初めてあなたの本当の姿を見た。

あなたは体中傷ついて、痛々しかった。

初めて、あなたの心を見つめ直した。

あなたの心はずたずたに引き裂かれていた。

 

なぜ、そんなにあなたは傷ついたの?

あの嵐がそんなにあなたを傷つけていたの?

私のしたこと全てもあなたを傷つけたって?

本当?そんなことあっていいの?

 

そう、わかったわ。何もしないで欲しいのね。

自分の体は自分で支えたいのね。

根元だけしっかり持っていればよいのね。

欲しいものだけ自分で取り込むのね。

 

そう、わかったわ。ただ見ていて欲しいのね。

自分の未来は自分で決めるのね。

でも、困った時だけは教えてね。

約束守から、ずっと仲良くしてくれるわね。

 

私は今、静かな大地になった。

あなたの根だけを支える大地。

あなたを見守るだけの大地。

あなたと心の通じた、母なる大地になった。

 

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