薔薇と蟻と蜂
野原に薔薇が一本生えていました。その薔薇の枝には、一匹の蟻が朝から晩までせっせと働いていました。そこでたくさんのありまきを育てていました。
初夏になって、その薔薇が綺麗な花を咲かせました。それでも蟻はせっせと働き続けていました。すると一匹の蜂が飛んで来て、薔薇の花にとまりました。
「やあ、綺麗な薔薇の花だなあ。薔薇さん、花の密をごちそうになってもよろしいですかな?」
「蜂さん、久しぶりですね。私の花、気に入って?さあ、おいしい密をたくさんさしあげましょう。たんとめしあがれ。」
薔薇はそう言うと、吹いてきた風にそっとその花を揺らしました。
その話を聞いた蟻が怒って、薔薇に向かって言いました。
「おい、薔薇さん。ずいぶん不公平な態度をしてくれるじゃあないか。俺とあんたとは毎日顔を合わせていても、あんたは挨拶一つしてくれない。よほど俺の事が嫌いの様だね。」
薔薇は黙り込んでしまいました。すると蜂が言いました。
「やあ、蟻さんか。久しぶりだね。薔薇さんと私とは古いつきあいなんだから、まあ、堪忍してくれたまえ。」
蟻は何も答えないで、プンとして仕事に戻りました。
蜂は小声で薔薇に言いました。
「いつ来ても、薔薇さんと蟻さんとは仲が悪いんだね。」
「だって、蟻さんは私の枝でありまきを育てているんだもの。私の栄養を吸い取られてしまうのよ。おかげで、今年はこれだけしか花を咲かせられなかったわ。」
「蟻さんに、止めてくれと言ったらどうなのさ。」
「何度も言ったわ。でも蟻さんたら、ありまきを育てるのは蟻さんの仕事だから、と言って聞き入れてくれないし、何度も言うととても恐い顔をするの。」
「そうなの。僕も蟻さんは恐くて近寄れないし。薔薇さんのこと、僕には何も助けて上げれない。ごめんね。薔薇さん。」
「いいのよ。蜂さんには何も関係ないことよ。それよりも私の密をたんと召し上がれ。蜂さんやチョウチョさんを甘い密でもてなすのが、私の仕事なんですもの。」
「悪いね。ご馳走になります。また来年も来ますから、またおいしい密をご馳走して下さいね。」
蜂は密をご馳走になると、おみやげに花粉を両手にいっぱい貰って、飛んで行きました。蜂が飛んで行った後、薔薇は困ったなあと言う顔をして、まりまきとその回りで忙しそうに動き回っている蟻を見つめていました。そのありまきはまるまるとよく太っていました。ありまきが太れば太るほど、薔薇は栄養を吸い取られて、苦しくなるのです。でも、薔薇にはどうすることもできません。本当は薔薇は
「誰か助けて、このありまきをやっつけて!」と、叫びたかったのです。しかし、もしそんなことを言って、それを蟻に聞かれたら、その後どんな仕返しをされるのかわかりません。仕返しが恐くて、薔薇は黙っていました。なるがままの運命に、自分を任せるしか方法がありませんでした。