魚村のお医者さん   須藤 透留
 
 良太君は真夜中の電話のベルで目を覚ましました。ベルは鳴り通しでしたが、お父さんもお母さんも起きてくる気配はありません。仕方なく良太君は電話に出てみました。
「良太さん、良太さん、助けて下さい。悪い病気が流行っていて、みんな困っています。」
受話器の向こうで焦って誰かがしゃべっています。
「君はだあれ?悪い病気が流行っているて何の事?」
良太は不思議に思って聞きました。
「すみません、すみません。私は山の向こうの湖の魚村の村長です。今,村の中で悪い病気が流行して、多くの魚が死にかけています。どうか早く来て、助けて下さい。」
「そんなこと言ったって、僕は子供だもん。何もできないよ。」
「良太さんはよく池の金魚の病気を治していらっしゃると聞いています。今そちらに鷺を迎えに行かせますから、それに乗ってすぐ来て下さい。」
 電話はガチャンと切れてしまいました。確かに良太君は池の金魚が病気になると、消毒液の中に金魚を入れて病気を治してやりました。でもどうしてそれを山の向こうの湖の魚村の村長が知っているのだどうと、不思議に思っていますと、庭の方でバタバタ、という大きな音がしました。急いで庭に出てみると、大きな大きな鷺がハアハア息を切らして待っていました。
「良太さん、御迎えにきました。」
「ちょっと待ってて。今、道具と薬を取って来るから。」
そう言って良太君は自分の部屋に戻ると、ピンセットと消毒液を持ってきて、鷺の背中にピョンと飛び乗りました。鷺は叉バタバタと大きな羽音をさせて空へ舞い上がりました。
 鷺は良太君を乗せたまま、星の綺麗な夜空をどんどん飛んで行きました。山を越え、その向こうの湖に舞い降りました。そこには沢山の魚達が良太君を待っていました。
「真夜中なのに申し訳ございません。私が先ほど御電話しました魚村の村長です。どうかこれらの魚達を助けてやって下さい。」
魚達の中から大きななまずが先頭に出てきて言いました。
「やるだけやってみるから、病気の魚さん達は並んで下さい。」
と良太君が言うと、魚達はがやがや何かしゃべりながら良太君の前に並びました。其の数と言ったら、百匹を越えていました。。
 良太君は自分の家の池の金魚にした様に、次から次と魚達を診察して、体の病気の部分に消毒液を塗ったり、体に付いていた寄生虫を取ったりして治療をしていきました。
 「最近は湖の水が汚れてきましてね。病気になる魚が多いのですよ。」
村長が良太君の仕事ぶりに感心しながら言いました。
「僕たち人間が汚れた水を湖に流すから、湖の水が汚れるんだね。君達魚に迷惑をかけて御免ね。」
良太君は仕事の手を休めずに言いました。
「良太さんを責めてるみたいな言い方をして御免なさい。でも湖の回りに住んでいる人や、キャンプをする人達が無神経に水を汚すのには、私たち魚は大変困っています。湖の水が汚れたり、魚がいなくなって一番困るのは、湖の周囲に住んでいる人たちなのにねえ。」
村長さんは腕を組み、額にしわを寄せて言いました。
「確かにそうだね。それにしても魚さん達はもっともっと辛い目に会っているだね。僕にできることは何でもするから言って下さい。」
 良太君は夜明けまでには全部の魚達の治療を済ませると、叉鷺の背中に乗って家に帰り、布団に潜り込んで寝ました。
 「良太、起きなさい。学校に遅れるよ。」
と言うお母さんの声で目がさめました。外はすっかり明るくなっていました。時計を見ると遅刻しそうです。良太君はがばっと起きると大急ぎで服を着替え、朝ご飯を食べ、学校に行きました。良太君は夜になるまですっかり魚村の事は忘れていました。
 今夜も真夜中になって、電話がリンリン鳴りだしたので良太君は目を覚ましました。お父さんもお母さんは起きてきません。仕方なく良太君が電話に出てみると昨夜の魚村の村長です。
「良太さん。昨夜はどうも有難うございました。お陰様で魚達は皆元気になりました。今後魚達の中に病人が出たときには、鷺を迎えに行かしますので、ぜひ治療にきて下さい。」
と言うことで、良太君は魚村のお医者さんと言うことになりました。しかし、魚村のお医者さんに任命された良太君は
「湖の水が綺麗になって、魚達が病気にならなければもっといいのになあ。」
と思いました。
 
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