月と太陽
昔々、太陽は昼間空を照らし、月と星とは夜空を照らすようにと、決められていました。太陽は朝が来ると自分の宮殿を出て、空を焦がしながら空に登って行きました。昼間は天頂に留まって、地上の生き物に恵みを与えました。夕方になると西の空に移動して、夕空を焦がしながら、自分の宮殿に帰って行きました。このように太陽は宇宙の中で、一番大切な仕事をしていました。
太陽が空にある間は、決して月は空に登ることを許されませんでした。太陽が太陽の宮殿に戻ると、初めて月は月の宮殿から出ることを許されました。まん丸な月はたくさんの星をお供に従えて、東の空からゆっくりと、優雅に、空に登って行きました。美しい月と、その月の美しさをたたえる、たくさんの星達が空を埋めて行く様子は、それはそれはとても美しい光景でした。地上の生き物達は、毎晩その美しい光景を、うっとりとして眺めていました。するとその柔らかい光が、生き物達の体の中をそっとめぐって、やがて生き物達を心安らかに、ぐっすりと眠らせる役目をしていました。
ある夜の事でした。北へ向かって飛んで行く雁の群れから、月は太陽の話を聞きました。それは月にとってはびっくりする話でした。太陽が力強くて、熱くて、雄々しい様子をしていると、教えられました。月は太陽について、いろいろと思いをめぐらせてみました。月は太陽に会ってみたいと思いました。月は太陽の姿を思いました。今まで見たこともない太陽のことを思うと、ますます太陽に会いたいという気持ちが募りました。
月は神様に、昼間空に登ってみたいとお願いをしてみました。けれどそれは許されませんでした。禁止されれてしまうと、ますます月は太陽に会いたくなりました。そこで月は食べ物も喉を通らなくなり、やせ細って、弱って、ついに月の宮殿から空にのぼれなくなってしまいました。
これにはさすがの神様も困ってしまいました。このままでは月は死んでしまします。それだからと言って、昼間に月を空に登らせると、太陽が月の美しさに心を奪われて、大切な仕事を止めてしまうと、地上は大変なことになってしまいます。神様は、それほど月が美しいことを、良く知っていました。そこで神様は三つの条件を付けて、昼間月が空に登ることを許しました。その一つは、昼間月が空に登るときには、白いベールを被って、月の美しさを隠すようにすることでした。二つ目は欠けた姿に、月の姿を変えて空に登ることでした。三つ目は、月は太陽からずっと離れていることでした。
月は太陽に会うために、自分の美しさを捨てても良いと考えました。月は喜んで神様の指示に従いました。そこでこれ以後、月も昼間に空に登れるようになりましたが、その姿は白くて、大きく欠けていて、おせじにも美しいとは言えない姿をしています。また月は太陽からずっと離れたところを登って行きました。それでも月は幸せでした。幸せだから現在でも、毎月何日かは太陽に会うために、月は昼間も空に登って行きます。けれど昼間の月は目だたないような姿をして、太陽から離れて空に登って行くために、太陽の方でも、月の美しさにまどわされることもなく、毎日毎日きちんと空に登って行って、昔と同じように地上の生き物のために輝いています。