鷲座

 鷲は大きな鳥です。その鋭い爪と、鋭い嘴で生きた動物しか食べません。突然空から矢のように舞い降りて、地上の動物達や小鳥達を捕まえて食べましたから、他の動物達は皆鷲をとても恐れていました。

 昔々、地球上にはたくさんの鷲が住んでいました。その鷲達はしきりと狩りを続けましたから、他の動物達の中には、仲間が鷲に食べられてしまったものも多かったのでした。そのため動物達は恐ろしくて、なかなか食べ物を捜しに出かけられませんでした。

 ある時、動物達は集まって、どうしたら鷲に捕まらないようにできるかを、相談をしました。それぞれの動物の都合もありますから、なかなか意見がまとまりませんでした。そこで兎が

「神様にお願いしてみたらどうだろう。他の動物を捕まえて食べてはいけないという、おふれを神様に出して欲しいと、お願いしたらいいんじゃあないか?」

と言いました。参加した動物達は

「それがいい、それがいい。」

と賛成しました。

 雲雀が神様へのお願い役に選ばれました。雲雀はすぐに空高く舞い上がり、神様の住む宮殿に飛んで行きました。

「神様、鷲は人殺しなんです。私たちを捕まえて食べてしまう、悪人なんです。どうか、私たちを捕まえて食べてはいけないという、おふれを出して下さい。」

雲雀は動物達の意見を神様に伝えました。神様は暫く考えていましたが、

「やはり生き物を殺すのは良くない。さっそく、生き物を殺して食べてはいけない、というおふれをだそう。」

と言って、神様は全ての動物に向かっておれをだしました。

 そうなると困ったのが鷲でした。獲物を捕まえようとすると、捕まりそうになった動物達は開き直って言いました。

「おい、鷲。あんたは神様のおふれを知らないのか。俺達を捕まえて、食べたら、どうなるのか知っているのか?」

と言いました。神様のおふれに背いたら、すぐに捕まえられて、地獄へ送られて、いろいろな苦しい責めに合うことを、鷲は良く知っていました。鷲は獲物を全く捕まえられなくなりました。鷲達の多くは餓死してしまいました。

 鷲達はたいへん困りました。自分達が全員死んでしまうことは目に見えていました。そこで今度は鷲達が集まって相談しました。神様の所に代表を送って神様のおふれを撤回してもらえるよう、頼むことになりました。しかしほとんどの鷲は飢えで体力が落ちて、とても天上の神様の宮殿まで行けそうも有りませんでした。すると若い鷲が

「僕が行ってきます。僕はみんなの中で一番若いから、頑張れば神様の宮殿まで行けるかも知れません。」

と言って、天上めがけて飛び立ちました。

 若い鷹は力の限り飛び続けました。高く、高く舞い上がりました。空腹で目が回りました。それでも歯を食いしばって、高く、高く、飛び上がり続けました。そしてついに神様の宮殿に到着しました。

 宮殿に着くとこの若い鷲は神様に面会をして言いました。

「神様、今のままだと私たち鷲は食べ物が全くなくて、みんな死んでしまいます。私たち鷲に、他の動物を捕まえて食べるように、と命令をなさったのは神様ではないですか。その神様が、今度は私たち鷲に、他の動物を捕まえて食べてはいけない、と決めたのはひどすぎます。私たち鷲も好き好んで他の動物を捕まえているのでは有りません。私たちは私たちが生きて行くのに必要なだけの動物しか捕まえません。どうかあのおふれをなしにして下さい。」

と言って、息絶えてしまいました。

 そこで神様は、おふれを撤回しました。ただ鷲達には、これ以上鷲の数が増えないようにと命令しました。これ以上鷲の数が増えないと、それだけ鷲に食べられる動物が少なくなると、神様は考えました。

 鷲達は獲物を捕まえることができるようになりました。生き残った鷲達はみんな元気になりました。鷲達はこの若い鷲を英雄として、天上に流れる天の川の側に葬りました。それが現在も鷲座として見ることができます。

 

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