お医者さん嫌い

 お医者さん嫌いは、子供が意識して怖がるのではない。お医者さんを見ただけで、自然と恐ろしくなる反応である。子供がお医者さんを見て、この人は自分を痛い目に遭わせると考えて、お医者さんから逃げ出そうとしているのではない。全て潜在意識の中で行われている反応である。

 子供が予防接種を受けると、痛い注射が恐怖を与える無条件刺激になっている。注射を受けたとき、その痛みによる恐怖で、周囲にあるものを恐怖の条件刺激として学習する。周囲にあった、子供にとって印象的なものは医者の白衣である。その結果、恐怖の条件反射が成立すると、子供はお医者さんを見ただけで、恐怖を生じるようになる。

 医者さん嫌いの場合、子供が恐怖の条件反射を学習するのは痛みや、押さえつけるなどの、子供にとって辛いことである。痛みを与えない限り、子供は注射器やメスを見せても、お医者さんや看護婦さんを見ても、決して恐怖の条件反射を学習しない。また、痛みを与えなくても、押さえつけて処置をしたりすると、子供はお医者さん嫌いを生じる。

 学習した恐怖の条件刺激はお医者さんばかりでなく、病院の建物、病室、着物の形や色なども、学習している場合が多い。子供によっては病院へ行くと聞いただけで、回避行動をとる子供もいれば、ある病院は大丈夫だが、こちらの病院は回避行動をとるという場合。子供によっては、白い衣服を着ているだけで、回避行動をとる子供もいる。ただし、これらの回避行動をとるとき、子供は決していろいろと思案をして、思考を巡らして、反応を行っているわけではない。認知した瞬間から、反応を生じ、回避行動を生じている。

 お医者さん嫌いは生後3ヶ月から始まる三種混合の予防接種で始まります。三種混合の予防接種は特に痛いので、一回で成立する子供もいますし、二回目以降に生じる子供もいます。注射器を見せないようにして行ってもお医者さん嫌いを生じます。注射器を見せても、注射したり、その後もんだりするときに母親だけを見せるようにすると、意外とお医者さん嫌いは生じません。

 この年齢ではまだ前頭葉はほとんど機能していません。しかし、認知に関する感覚系の大脳新皮質や辺縁系は機能し始めています。そしてお医者さん嫌いは一生続く反応の形態です。お医者さん嫌いは、まさに動物的な恐怖の条件反射です。

表紙へ戻る