3歳児神話は存在するか?

 1999年3月29日朝日新聞朝刊10頁斉藤学さんの「環境に応じ変わる家族」の中で「無用な3歳児神話」として、3歳までの母親と子供との関わりを否定する文章が出ていました。私は3歳児神話と言うものが有るのかどうかは知りませんが、文章の中の(子供が3歳になるまでは母親が付ききりで面倒を見るのがよいという、実証を欠いた説教)については、少なくとも実証が無いわけでは無いと考えます。少なくとも赤ちゃんが人間として出発するためには、母親に抱かれた赤ちゃんと、母親とのコミュニケーションが大きな役割を持っていると考えられています。

 今までの赤ちゃんの観察から、子供の性格形成は赤ちゃんの母親に対する共感と言う形で形成されているようです。共感とは情動で相手の感情を受けとめることです。

1。新生児期・・・遺伝的、本能的情動反応


2。乳幼児期

 ・情動移植・・・母親から情動判断に必要なものを受け取る(表情、声など)
 ・共感の成立・・母親に共感することで、情動反応を形成
 ・情動調律・・・共感により自分の情動と母親の情動とを調律する
 ・行動模倣・・・情動行動を模倣して、他人と自分の情動を調律する

3。いわゆる反抗期・・できあがった自分の性格で行動する。親が気づく子供の性格

 脳科学ではLouDouxの研究以後、大脳辺縁系の扁桃体の中に、人の表情に反応する細胞が見つかっています。もちろん猿の脳での実験です。人の赤ちゃんも母親の顔や表情を区別しています。赤ちゃんの大脳新皮質はほとんど機能していませんから、きっと赤ちゃんの扁桃体の中に、自分の母親の顔や表情を区別する脳細胞がすでにあることは間違い有りません。扁桃体は情動を評価する脳です。母親の顔や表情が赤ちゃんの情動の発達にとても大切なことは既に分かっています。その顔や表情は母親である必要があります。赤ちゃんは生まれ落ちてから、母親とのスキンシップの中で、母親の顔や表情を扁桃体の中に記憶して、それを通して情動に取り入れているようです。そのことは今までの赤ちゃんの観察からも言えますし、ハリー・ハーロウの猿の実験からも推定されます。

 以上のように、赤ちゃんが成長していわゆる第一反抗期迄の間に、自己の情動を確立するために、母親の表情はとても大切な役割を果たします。その様な意味で、母親が絶えず側に居る必要は有りませんが、母親との語らい、つきあいの中で、人間としての情動が確立して行くことは脳科学的に根拠の有ることです。多分19世紀だったと思います。資料が見つからないので正確なことは申し上げられませんが、世界の2カ所で野生人が見つかっています。いわゆる狼に育てられた子供です。見つかってから、人々は人間社会に戻そうと努力しましたが、子供は不適応を起こして死んだとの事です。つまり赤ちゃんの時の情動が人間を狼にしてしまいました。それは赤ちゃんの時に扁桃体の中に記憶された記憶のためです。それほど人間の一生を規定する可能性のある赤ちゃんの子育ては、母親である必要が有ります。母親でない子育ては、赤ちゃんの情動の発達に好ましくない影響を与える可能性があります。それは場合によっては、現代の子供達のいろいろな行動障害の根底をなしている可能性もあります。いずれにせよ、可能な限り母親が子育てをする事が子供の情動の発達、性格形成と言う面では一番良いように思われます。

表紙へ